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2016/08/31
分離条項とは?契約書の一部が無効となったらすべて無効になってしまう?

こんにちは。高橋翻訳事務所(http://goo.gl/25cZv)契約書・法律文書翻訳担当の佐々木と申します。今回は分離条項(severability)と準拠法(governing law)について取り上げていきます。

契約書では、分離条項(分離可能性、分離独立性)という規定が設けられる場合もありますが、多くの人にとっては聞きなれない言葉かもしれません。簡潔に説明しますと、契約書のある条項が無効となった場合、その条項は無効となりますが、それ以外の条項は影響を受けることなく有効のままになるという概念です。契約締結後に新しい法律が制定、もしくは法改正が行われる可能性は少なからずあり、そのために契約書の一部が無効(invalid)、または執行不能(unenforceable)となってしまう事態を想定し、このような条項をあらかじめ定めておきます。例えば、「甲は乙に製品A、B、Cを供給する」といった契約書があり、法改正などによって製品Cの供給ができなくなった場合でも、製品AとBはその影響を受けることなく供給を続けなければなりません。

しかし、分離条項の規定があっても、無効となった条項がその契約の重要な要素を占める本質的なものである場合は、契約全体を無効とするケースもあります。ある機械の売買契約を締結し、無償のメンテナンスも契約に含まれている場合、機械の売買に関する条項が無効になったとしても、分離条項があるため無償メンテナンスについては影響を受けないという解釈は認められないというのが通例です。

分離条項と関係が深い規定が準拠法です。準拠法とは、その契約がどの国の法律を適用するかということです。契約当事者が両方とも日本国内の企業、もしくは個人である場合は、日本の法律を準拠法とすれば問題ありませんが、異なる国の企業や個人間で契約を締結する際は、契約の不履行などで紛争が生じた場合に備えて準拠法を定めておかなければなりません。

国際契約で準拠法を定める際は、双方とも自国の法律を採用したいと考えるのが自然ですが、当事者間の力関係や立場(bargaining position)によるところも大きいのが現実です。どちらも主張を譲らない場合は第三国の法律を準拠法にすることも選択肢の一つとしてありますが、その法律が自分たちに不利な内容でないかを慎重に判断しなければなりません。また、準拠法は相手国の法律とし、契約自体について有利な条件を獲得するといった駆け引きも実際にはあるようです。余談となりますが、国際的には契約書のドラフト(draft)を作成するのは立場が強いほうの当事者というのが一般的で、作成者に有利な内容となっているケースが多々あります。ドラフトを基にし、その後の交渉で契約内容を詰めていくことになりますが、自分たちで作成していないドラフトを採用する際、特に自国以外の言語の場合は不利な条項が含まれていないか細かくチェックする必要があるでしょう。契約の内容が複雑で専門性が高い場合は、弁護士などに相談、依頼したほうが安全かもしれません。

準拠法は日本国法と定めてあり、外国の取引相手が代金を支払わないという事例が生じた場合、多くのケースでは準拠法に基づいて訴訟の手続きに入りますが、実際に勝訴しても未払いを続ける可能性があります。その次は財産の強制執行ですが、相手側の財産が日本国内にあるとは限らず、他国の財産に対して強制執行はできません。そうなってしまうと準拠法の存在意義が薄れてしまうため、状況によっては代わりに仲裁条項(arbitration)を契約書に含めておくことも一案です。

ここで、分離条項と準拠法について、実際の契約書での例を紹介していきます。以下の例文は、弊社が会員となっている日本商事仲裁協会(Japan Commercial Arbitration Association)の雛形を基に調整したものです。

●分離条項
<例文1>
Severability If any provision of this Agreement is found invalid or unenforceable, the validity or enforceability of the remaining provisions or portions hereof shall not be affected thereby, unless the invalid or unenforceable provision is material and essential to either one of the parties.

分離条項
本契約のいずれかの条項が無効または拘束力を持たないことが判明しても、その条項がいずれか一方の当事者にとって重大または不可欠なものでない限り、それは他の条項の有効性や拘束力にいかなる影響も及ぼさない。

<例文2>
Severability
If any of the provisions in this Agreement is held to be invalid or unenforceable in any respect, such invalidity or unenforceability shall not affect the other provisions of this Agreement and this Agreement shall be construed as if such invalid or unenforceable provision had never been contained herein.

分離可能性
本契約のいずれかの条項が何らかの点について無効または執行不能とされた場合であっても、その無効や執行不能は本契約の他の条項に影響を与えず、本契約はその規定が含まれていなかったと解釈される。

<例文3>
Severability
If any of the provisions of this Agreement is declared fully or partly invalid or unenforceable, this Agreement shall be considered divisible as to such provision, and the remainder of this Agreement shall be deemed valid and binding as if such provision were not included herein unless such invalidity or unenforceability destroys the underlying business purposes of this Agreement. Both parties shall replace or revise such invalidated or unenforceable provision with a valid and enforceable provision, to the maximum extent permissible under applicable law, that has the closest meaning to what the parties intended or would have intended according to the sense and purposes of this Agreement had the matter been considered when concluding this Agreement.

分離独立性
本契約の条項のいずれかが、全部または一部無効もしくは執行不能とされた場合、その無効や執行不能により本契約の商業上の目的が無意味とされない限り、本契約はその規定につき分割可能とし、本契約のその他の規定はその条項が本契約にはじめから含まれていなかったとして有効であり、拘束力があるものとみなされる。両当事者は、その無効や執行不能とされた条項を法的に可能な範囲で、両当事者の意図したところにもっとも近い、もしくはこの点が本契約締結時に考慮されていた場合、本契約の意図と目的に従い意図されていたと思われる有効で執行可能な条項に置き換える。

<例文4>
Severability
If any provision of this Agreement is subsequently held illegal, unenforceable or invalid by a court or other competent authority, such illegality, unenforceability or invalidity shall not affect the legality, enforceability and validity of any other provisions of this Agreement. The parties shall replace any such provision with a valid, legal and enforceable provision which most nearly conforms to their original intent.

分離独立性
本契約の条項のいずれかが後に裁判所やその他正当な権限を有する機関により違法、執行不能または無効とされた場合、その違法性、執行不能性や無効性は、本契約の他の条項の適法性、執行可能性または有効性に一切影響を与えない。両当事者は、その規定を本来の意図に最も適合する有効かつ適法で強制執行可能な規定によって置き換える。

<例文5>
Severability
If any portions or provisions of this Agreement is declared unenforceable or invalid by court or administration decision, or any applicable law, the validity of any other portions or provisions of this Agreement shall not be thereby affected in any way whatsoever.

分離可能性
本契約のいかなる部分や規定が、裁判所や行政命令または適用される法により、強制不能もしくは無効であると宣言された場合、本契約のその他の部分または規定は影響を受けない。

<例文6>
Severability
In case any provision, clause of application of this Agreement is held illegal, unenforceable or invalid by court or other competent authorities, it shall be deemed severable, and such illegality, unenforceability or invalidity shall not affect the legality, enforceability and validity of any other provisions, clauses and applications of this Agreement which shall be construed as if such illegal, unenforceable or invalid provisions, clauses or applications had not been inserted herein, unless such illegality, unenforceability or invalidity destroys the underlying business purposes of this Agreement.

分離可能性
本契約の規定、条項、適用が違法な場合または裁判所その他の当局により執行不能もしくは無効とされる場合、当該規定、条項、適用は分離可能とみなされ、その違法性、執行不能、無効性が本契約の根幹をなす事業上の目的を損なう場合を除き、当該違法、執行不能、無効な規定、条項、適用は本契約中に存在しなかったものとして解釈され、本契約の他の規定、条項、適用の合法性、執行可能性、有効性に影響を及ぼさない。

●準拠法
<例文1>
Governing Law
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan.

準拠法
本契約は日本法に準拠し、これに従い解釈する。

<例文2>
Governing Law
The validity, interpretation and performance of this Agreement shall be governed by and in accordance with the laws of Japan.

準拠法
本契約の有効性、解釈および履行は、日本法に従う。

<例文3>
Governing Law
The execution, effect, construction, performance, and solution of any dispute of this Agreement shall be governed by the laws of ○.

準拠法
本契約の締結、効力、解釈、履行および紛争の解決は、すべて○国の法律を準拠法とする。

<例文4>
Governing Law
This Agreement shall be governed, in all respects including validity, construction and performance, by and under the laws of Japan.

準拠法
本契約は、その効力、解釈および履行を含むすべての事項について、日本国法に準拠する。

<例文5>
Governing Law
The validity, construction, performance and enforceability of this Agreement and/or each Individual Sales Contract shall be governed by and construed under the laws of Japan.

準拠法
本契約や各個別売買契約の有効性、解釈、履行、執行可能性は日本国法に準拠し、解釈される。

<例文6>
Governing Law
This Agreement and all questions arising out of or under this Agreement shall be governed by and interpreted in accordance with the laws of ○.

準拠法
本契約、本契約からまたは本契約において生ずるすべての問題は、○国の法により支配され、同法に従い解釈される。

<例文7>
Governing Law
This Agreement shall be governed by and under the laws of Japan as to all matters including validity, construction and performance.

準拠法
本契約は、効力、解釈および履行を含むすべての事項について、日本国法により支配される。


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