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2015/02/12
過労死からサービス残業、最低賃金まで、労働者に関するさまざまな問題や法律、制度

契約書翻訳、経済翻訳、政治翻訳、スポーツ翻訳担当の佐々木です。

今回のテーマは労働者を取り巻く問題や知っておくべき法律、制度についてです。

前回、途中まで取り上げた過労死問題の続きからです。過労死は現在、世界各国で問題となっていて、かつては英語で「death from overwork」でしたが、今では「karoshi」として外国のニュースなどでも使われるほどになりました。

まずはアメリカです。アメリカでは日本ほど労働者の立場を保護する環境が整っておらず、雇用者は理由を問わずに従業員を解雇することができます。
ちなみに、解雇は英語で「fired」、「おまえはクビだ!」の決まり文句は「You’re fired!」と言います。解雇を告げられたその日に身の回りの片づけをして会社を去ることも珍しくありませんし、日本では考えられないほどドライな印象です。
アメリカは言わずと知れた契約社会のため、雇用者は契約した職務を遂行できない従業員をスパッと解雇します。しかし、従業員としても契約した職務で成果を挙げることに集中できるので、必要以上に上司の機嫌を伺ったり、付き合いに自分の時間を割いたりしなくてもいいというメリットがあります。
また、労働者も今より条件の良いオファーがあれば迷わずに別の会社に移りますので、転職の回数が多くてもマイナスには見られません。転職を何度も繰り返すことを「job hopping」、その人を「job hopper」と呼びます。
残業についてですが、公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)によって、1日8時間以上、週40時間以上の労働は賃金の1.5倍とされていますが、残業時間の上限は設けられていません。
また、管理職や専門職などのホワイトカラー(white collar=白い襟)には残業の規制が適用されないため、潜在的には数多くのホワイトカラー労働者が長時間の残業を強いられているのが現状です。参考までに、ホワイトカラーの対義語にブルーカラー(blue collar=青い襟)があり、作業服を着て、工場などで肉体労働に従事する人たちを指します。
このように、アメリカの労働環境は日本と大きく異なっていますが、特にホワイトカラー労働者は過度な成果主義や競争の下、長時間労働やストレスによって過労死に陥るケースが増えています。
しかし、アメリカでも近年は社員を大事にし、働きやすい職場作りを試みている企業も増えているようです。

次にヨーロッパですが、EUには「労働時間指令(Working Time Directive)」があり、加盟国の労働時間や休息時間、有給休暇など最低限の基準を規定しています。
例えば、24時間につき最低で連続11時間の休息時間を付与すること、1週間の労働時間については時間外労働を含め、週48時間以内を上限とすること、最低4週間の年次有給休暇を付与することなどがあり、ワークライフバランスを意識した内容になっています。
しかし、業務の性質を考慮し、役員や方針決定の権限を有する人、家族労働者、教会関係者については、年次有給休暇の規定のみ、警備や病院、放送、研究開発に従事する労働者は1週間の労働時間と年次有給休暇の規定のみが適用されます。
また、労働者本人の同意があれば、週48時間以上の労働も認められます(オプト・アウト:opt out)。

ヨーロッパの労働問題と言えば、フランスで数年前に発生した、フランステレコム社の従業員自殺問題を覚えている人も多いかもしれません。
かつては国営だった同社は1996年に民営化し、固定電話やインターネットサービスなどの事業を展開していますが、規制緩和が進む通信マーケットで厳しい競争に巻き込まれ、リストラや労働環境の悪化により、数年間で30名以上の自殺者を生み出しました。
しかし、フランスは自殺率がヨーロッパで一番高く、このようなケースも珍しくありません。パリのエッフェル塔は自殺者が多いことでも知られており、その対策として防護柵が設置されています。
週35時間労働制を採用し、長期バカンスでも有名なフランスですが、そのしわ寄せが労働者の負担になっているとの指摘があります。従来の40時間が35時間となり、雇用者は5時間減少した分を取り戻すために労働者に対してこれまで以上の結果を求めるあまり、労働環境の悪化を招いているというものです。
また、労働時間の短縮で見込んでいた雇用の増加も結果が伴わず、フランスの失業率は10%前後と依然として高い水準になっています。

アジアからは経済成長を続ける中国を取り上げますが、失業率はここ数年4%前後で推移しており、日本と同じ水準を保っています。
最低賃金は各地方政府が定めていますが、例えば北京市は2014年4月から月1,560元(約25,000円)に、上海市は1,820元(約30,000円)に引き上がりました。
労働時間は、労働法では1日8時間、週平均で44時間以内と定められていますが、国務院の規定では1日8時間、週40時間に短縮されています。時間外労働も原則として1日1時間、特別なケースでも最大3時間とされており、1か月の残業時間は36時間が限度とされています。
賃金は物価の関係もあるため、日本とは一概に比較できませんが、それ以外の条件についてはそれほど違いがないように見受けられます。しかし、実態はどうなのでしょうか。
中国では大学新卒者の就職難が社会問題となっており、新卒者と雇用のバランスが崩れている状況はここ数年続いています。大学を卒業しても仕事がなく、やむを得ず条件の悪い企業に就職をする人が増加しており、低賃金で働く若い世代が複数人で共同住宅に住む「蟻族(ant tribe)」といった言葉も生まれました。
また、中国には農村に戸籍を持ちながらも都市部で労働に従事する「民工」と呼ばれる人たちがいます。ほとんどの人が建設業などの肉体労働に就いており、低賃金かつ厳しい環境下での労働を強いられています。
正確な数字は分かりませんが、民工は2億人程度いるとの試算があります。中国の旧正月(春節)を迎えると、民工の人たちが帰省をするため、駅に大勢集まっている映像をニュースで見たことがある人も多いのではないでしょうか。
このように制度と実態が大きくかけ離れている中国ですが、自殺者は年間10万人程度となっています。有給休暇の取得率、日数とも世界の最低水準で、過労によるうつ病の患者も年々増加している状況です。
中国新聞社によると、1日当たり1,600人、年間で60万人が過労死しているとの報道がされています。実際のところは不明ですが、過酷な条件で労働している人が数多く存在する可能性は非常に高いでしょう。

日本では近頃、「ブラック企業」という言葉が流行しています。明確な定義はありませんが、従業員に対して長時間労働やサービス残業を強要し、過酷なノルマを課す企業でしょうか。
2012年から「ブラック企業大賞」が行われており、ノミネートされた企業から投票によって大賞が決められています。ノミネートされるのは名の知れた企業が多く、それだけ世間の注目を集めていると言えますが、中小企業でも厳しい環境下で働いている人もいると思います。決して一人では悩まずに、最寄りの労働局や労働基準監督署、NPO団体などに相談しましょう。
私自身もかつて勤めていた企業から不当な扱いを受けたとき、労働基準監督署に相談しましたが、担当の人が親身になってアドバイスをしてくれました。一般的にお役所のイメージが強く、なかなか行きづらいかもしれませんが、活用することをお勧めします。
厚生労働省もブラック企業対策として、疑いのある企業や事業所を調査しましたが、約8割が違法行為をしていたという結果が出ました。
長時間労働やサービス残業などが主な理由でしたが、これが日本の労働環境の現実なのではないでしょうか。是正されない場合は企業名が公表されるようですが、今回の調査は氷山の一角であり、今後も継続した対策が求められます。

数年前に発覚した「名ばかり管理職」の問題もあります。労働基準法41条では、「監督もしくは管理の地位にある者」については、労働時間や休憩、休日に関する規定の適用除外を認めているため、管理職に対しては労働基準法の時間外や休日など残業手当の支払いが義務づけられていません。
しかし、この規定が拡大して解釈され、管理職を増やして残業手当の支払いを免れようとする企業が数多く存在しているのが現状です。
この問題を受け、「経営者と一体的な立場で仕事をしている」、「出社や退社など勤務時間に厳格な制限を受けていない」、「地位にふさわしい待遇がなされている」者を管理職とするという条件を厚生労働省が通達しました。
しかし、小売業や飲食業では改善が見られず、マクドナルドで店長を務めていた社員が同社に対し、未払いの時間外、休日賃金の支払いを求めた裁判も行われました。東京地方裁判所の判決では未払い残業手当の請求を認め、この判決を受けてセブンイレブンなどの大手企業も手当支給を開始しています。
厚生労働省も新たに「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」という通達を出し、管理職の範囲がより明確化されました。大手の家電量販店に勤めている知人がいますが、管理職でなくても以前は残業手当が支給されていなかったそうです。しかし、数年前の監査で指摘を受けて支給されるようになり、相変わらず労働条件は厳しいようですが、社内のモチベーションが変わったと言っていました。

「サービス残業」も労働基準法に違反しています。労働基準監督署の指導も何度か出されていますが、実際はどうなのでしょうか。
終業時間になると退勤処理を強要し、そのあとに勤務を続けるといったケースだけでなく、仕事を自宅に持ち帰る「ふろしき残業」や、近頃は「メール残業」や「クラウド残業」といった言葉も生まれています。
私が務めている会社でも「ノー残業デー」が月に2回あり、その日は定時に帰ることを奨励していますが、実際には不可能で、周囲にノー残業デーを実行している社員はほんの一握りなのが現場の状況です。
本当にノー残業デーを実施するのであれば、終業時間になった時点ですぐにパソコンを使えないようにし、社内の電気を強制的に消すなどしなければ実現はできないでしょう。そもそも、ノー残業デーがいつなのかを把握している社員も総務部以外にはいないのではないでしょうか。
定時に強制消灯をしている企業もあるようですが、照明器具を持ち込んでサービス残業をしているといった話も聞きます。ここまでいくと本末転倒で、誰のための、何のためのノー残業デーなのかと思ってしまいます。サービス残業は違反だと分かっていても、さまざまな事情のために声を上げることができずに辛抱している人が多数おり、そのような人たちの頑張りが日本の経済を支えているのでしょう。

サービス残業の一種と呼べるかどうか分かりませんが、「帰宅拒否症候群」といったものもあるようです。その名のとおり、自宅に帰りたくないため、定時になっても帰宅せず会社に残る人たちのことです。
その理由は多種多様ですが、夫婦仲がうまくいっていない、自宅に居場所がないなどが主なところでしょうか。上司がこのような状況だと部下が先に帰りづらくなり、付き合いで残業を強いられるというパターンに陥りがちです。
また、帰宅拒否症候群の上司から頻繁に飲みに誘われるが断れないといった悩みを抱える人も少なからずいることでしょう。上司との関係は難しい問題ですが、一人で考え込まず周囲に相談することをお勧めします。

労働基準法の第11条で定められているとおり、労働の対象として使用者が労働者に支払うものを賃金と言います。「賃金の最低金額(minimum wage)を保障し、労働者の生活安定と労働力の質的向上を通じて経済の健全な発展に寄与することを目的」とした法律が、最低賃金法です。
最低賃金法に基づき、国が賃金の最低額を定め、使用者はそれ以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度として、最低賃金制度があります。
最低賃金には地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があり、地域別最低賃金は都道府県内で働くすべての労働者に対して適用されます。各地域の生計費によって金額が決められているため都道府県ごとに異なり、例えば2013年度の最低賃金時間額を見ますと、北海道は734円、東京は869円、沖縄は664円で、全国平均では764円となっています。
地域別最低賃金は、毎年、中央最低賃金審議会が地方最低賃金審議会に対して金額改定の引き上げ額を提示し、その目安を基に地方最低賃金審議会が地域の状況に応じて審議を行い、最低賃金を決めています。
2003年度は全国平均で664円だったので、この10年で約100円上がったことになります。特定最低賃金は、特定の産業について地域別最低賃金よりも高い最低賃金を設定することができます。鉄鋼業や出版業、自動車小売業など、現在は全国で約240件が定められています。
最低賃金の対象となるのは基本給のみで、皆勤手当や通勤手当、家族手当、賞与などは除外されるので注意が必要です。自分の賃金が最低賃金以上かどうかを確認したい人は、最寄りの労働基準監督署に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

最低賃金法はパートタイムやアルバイト労働者にも適用されますが、増加の一途をたどる非正規雇用の労働者は全体の3分の1を超え、40%近くを占めるまでになりました。
また、非正規労働者の20%は正規雇用を希望しているのが現状であり、日本の経済が上向きだという報道もありますが、景気回復の恩恵を受けているのは一部の人たちだけだというのがあらためて実感できます。
そのような状況の中、パートタイム労働者でありながらも正社員と同様の仕事をこなしている人も多く、賃金を含めた待遇が見合っていないという問題が生じてきています。パートタイム労働者の労働環境や待遇を整備するため、1993年に施行されたパートタイム労働法は時代に応じて数度の改正が行われてきました。
パートタイム労働者とは、「1週間の所定労働時間が、同じ事業所で働く正社員の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」と定義されており、アルバイトや契約社員、臨時社員であっても、この条件に適用する労働者であればパートタイム労働法の対象となります。
最近では2008年に改正が行われ、事業主はパートタイム労働者を雇い入れた際、速やかに昇給や退職手当、賞与などの有無について明示すること、パートタイム労働者から求めがあったときには、その待遇を決定する際に考慮した事項を説明すること、パートタイム労働者の正規労働者への転換を推進するために必要な措置を講じること、の3つが新たに含まれました。
また、努力義務として、パートタイム労働者の職務内容、成果、意欲、能力、経験などを考慮して賃金を決めること、教育訓練は職務内容、成果、意欲、能力、経験などに応じて実施すること、福利厚生施設の利用機会を与えること、の3つが盛り込まれています。
パートタイム労働者の職務内容が正規労働者と同一の場合についても、正規労働者と同じ方法で賃金を決定するように努めること、すべての待遇についてパートタイム労働者であることを理由に差別的に取り扱うことを禁止するなど、パートタイム労働者の立場に配慮した内容になりました。
職務の内容や責任については明確な線引きが難しいところですが、パートタイム労働法では、「その労働者に与えられた職務に不可欠な業務」、「業務の成果が事業所の業績や評価に大きな影響を与える業務」、「労働者の職務全体に占める時間、頻度において、割合が大きい業務」とし、責任についても「与えられている権限の範囲」、「業務の成果について求められている役割」、「トラブル発生時や緊急時に求められる対応の程度」、「ノルマなど成果への期待度」と定義されています。

ここまでは主に労働者を取り巻く諸問題についてまとめてきましたが、次回のコラムでは派遣労働者の現状や関連する法律などを取り上げていきます。


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