翻訳家によるコラム「契約書・政治経済・アート・スポーツコラム」



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2015/02/05
私たちを取り巻くさまざまな契約と保護してくれる法律 その1

契約書翻訳、経済翻訳、政治翻訳、スポーツ翻訳担当の佐々木です。

今回のテーマは私たちの生活に関わっている契約と法律についてです。

契約とは、二人以上の当事者が意思表示の合致によって成立する行為であり、私たちの生活でも日々行われています。
例えば、コンビニエンスストアで飲み物を買う、フィットネスクラブの会員になるなど、一日に何度も契約を結んでいます。これらの契約ではわざわざ契約書を作成することもなく、口約束だけで契約が成立していますが、住宅や車など高額の買い物をする場合は後のトラブルを回避するために契約書が作成されます。

契約は「意思の合致」によって成立します。
スーパーマーケットの店員が野菜を棚に陳列する行為は、他人に契約の申し込みをさせようとする意思の表示であり、「申し込みの誘引」と呼ばれます。その野菜をカゴに入れ、レジまで持って行った時点で契約の「申し込み」となり、レジ担当の店員が「ありがとうございます」と言うと、意思の合致となります。このように、契約は申し込みと承諾によって成立します。
隔地者間の契約成立時期については、申し込みはその意思表示が相手方に伝わった時点で効力が発生し(到達主義)、承諾はその意思を相手に発信した時点で効力を持つ発信主義が採用されていました(民法第526条)。
しかし、近年増加しているインターネット販売では、承諾の発信主義に関するトラブルが多いため、2001年に「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」が施行されました。この法律では遠隔地間取引の契約成立時期を契約の承諾が相手方に到達した時点としています。

契約は原則として自由に締結することができます(契約自由の原則)。
一つめは契約締結の自由で、契約をするかしないかは各当事者の自由であり、強要されることはありません。二つめは相手方を選択する自由で、契約する相手を自由に選ぶことができます。
契約内容の自由が三つめで、当事者間の合意があれば原則として契約の内容を自由に決めることができます。
最後は契約方法の自由です。口頭や書面など、お互いの合意があればどのような方法で契約を締結しても自由です。しかし、立場が対等でない場合などは法律で例外が定められているケースもあります。例えば、使用者と労働者の間で結ばれる労働契約について、労働組合に加入しないことを雇用条件とする行為は禁止されています(労働組合法第7条)。
また、公序良俗(公の秩序または善良の風俗)に反している契約も無効となり(民法第90条)、殺人契約や愛人契約などがあたります。
また、消費者を守る制度としてクーリングオフがあります。契約を結んだ場合はその契約を守るのが原則ですが、一定の条件、期間内であれば解約できるというものです。クーリングオフ=冷却期間で、頭を冷やして考える期間を意味します。

・訪問販売、電話勧誘販売(キャッチセールスなど):8日間
・特定継続的役務提供(英会話教室、エステなど):8日間
・連鎖販売取引(マルチ商法):20日間
・業務提供誘引販売取引(内職商法など):20日間
・割賦販売(クレジット、ローン契約):8日間
・ゴルフ場会員契約:8日間
・宅地建物取引:8日間
・投資顧問契約:10日間
・保険契約:8日間
・訪問購入:8日間

クーリングオフの対象となっている契約であれば、理由を問わず、無条件に契約の解除が可能となっています。
しかし、クーリングオフは自ら意思表示をしなければならない点に注意が必要です。また、手続きは書面で行うと法律で定められています。ハガキでも通知はできますが、確実に証拠を残すためには内容証明郵便を利用したほうが後々のトラブルを未然に防げるでしょう。
内容証明郵便とは、郵便局で郵便物の写しを二部作成し、原本を受取人に配達、写しを差出人と郵便局が保管することにより、文書の内容と日付を証明してくれる制度です。別途料金が必要ですが、発信日の証明になりますので、クーリングオフの通知は内容証明郵便で送るのが一般的となっています。しかし、以下の契約はクーリングオフ制度が適用されませんので、手続きをする前に確認したほうがいいでしょう。

・通信販売(インターネットやテレビショッピング)
・化粧品や健康食品などの消耗品を使用、もしくは一部を消費した場合
・自動車
・3,000円未満の現金取引
・消費者が業者を自宅に呼び寄せた場合

契約が対象に含まれるかどうかの判断が難しい場合は、国民生活センターに相談するのも一つの方法です。

クーリングオフの中でも意思表示という言葉が出てきましたが、意思表示とは文字どおり自らの意思を相手に表示することです。
家電量販店で「あの商品を買います」という行為が意思表示にあたります。その他の身近な例としては臓器提供意思表示カードがあります。脳死、もしくは心臓が停止した死後、移植のために臓器を提供するかどうかの意思を表示するためのカードで、持っている人もいると思います。
意思表示も取り消すことのできるケースがあり、詐欺や強迫がそれに該当します。民法96条でも、「詐欺または強迫による意思表示は、取り消すことができる」と明記されています。
また、意思表示や判断を行う能力が十分でない人のために、民法で後見、保佐、補助の制度を設けています。

・後見制度
民法第7条で、「精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者」を成年被後見人と定めており、家庭裁判所が選任した成年後見人が本人を代理して契約の法律行為を行ったり、不利益な法律行為を取り消したりすることができます(日用品の購入などは除く)。

・保佐制度
民法第11条では、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」を被保佐人としており、家庭裁判所が保佐人を選任します。被保佐人が民法第13条で定められた行為(訴訟や借金、相続の承認や放棄、新築など)をする場合は、保佐人の同意が必要となります。

・補助制度
「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」と定められており(民法第15条)、家庭裁判所が補助人を選任します。民法第13条に規定する行為の中でも家庭裁判所が同意を必要としたものについて、補助人の同意が求められます。

また、20歳未満の未成年者が法律行為をするには、法定代理人の同意を得なければなりません。
法定代理人は親権者(原則として両親)で、親権者を欠く場合は家庭裁判所が未成年後見人を選任します。しかし、民法第753条で、「未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす」と定められているとおり、結婚した未成年者には法定代理人制度が適用されません。
ここで疑問となるのは、結婚した未成年者はお酒やタバコが許されるのかという点ですが、健康などを考慮し、20歳未満の飲酒や喫煙は「未成年者喫煙禁止法」や「未成年者飲酒禁止法」で禁止されています。
また、選挙権も20歳にならないと取得できません。成年年齢については18歳に引き下げるかどうかの議論が何年も前から続いていますが、世界の主な国では18歳が大多数を占めており、韓国が19歳、20歳の国は日本の他にタイや台湾、チュニジア、ニュージーランド、パラグアイなど少数派となっています。

契約に関する総則については民法の第521条から548条に書かれていますが、民法で定められている贈与、賃貸借、売買、雇用など13の契約は典型契約(有名契約)とされており、歴史的にも古く、さまざまな事例を経て現在に至っています。

(1)贈与
贈与とは、当事者の一方が自分の財産(金品、物品)を無償で相手に与える意思を表示し、相手が受諾することによって成立します。
財産を与える側を贈与者、受け取る側を受贈者と呼びます。贈与契約は口約束でも成立しますが、取り消すことも可能となっていますので、例えば、「宝くじで1,000万円当選したら、半分あげる」という口約束をし、実際に当選したとしても、渡す前であれば撤回できます(民法第550条)。
贈与者が生存中に家族や他人に贈与する行為を生前贈与といいます。死後の相続トラブル回避や相続税の負担軽減を目的として有用な贈与方法で、贈与によって1年間に受け取る金額が110万円以下であれば贈与税が課税されません。
また、住宅購入資金のために両親から贈与を受ける場合、「相続時精算課税制度」と「住宅取得等資金の非課税制度」の特例制度があります。しかし、年齢や収入、物件など適用にはそれぞれ条件がありますので、制度の利用を考えている人は事前に確認が必要でしょう。
また、贈与者の死亡によって効力を生じる「死因贈与」があります。死因贈与は遺言によって財産を贈与する「遺贈」と類似していますが、死因贈与は契約のため受贈者の承諾が必要となります。
それに対して、遺贈は遺言者の一方的な意思表示によって効力が生じます。
しかし、両者は非常に似ているため、「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」と民法554条で定められています。

(2)売買
民法第555条では、「当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と定められています。
売主の「売ります」という意思と買主の「買います」という意思が合致することによって売買契約が成立となります。売買契約は当事者の双方に権利義務が発生する双務契約であり、売主には財産を引き渡す義務と代金を受け取る権利が、買主には代金を支払う義務と財産を受け取る権利があります。
また、売買契約において、対象物に問題があった場合に備えて、売主には担保責任が課せられています(民法第561条)。
例えば、引き渡した物件に欠陥があったり、その土地が他者の所有物であったりする場合などが該当します。また、対象物に「隠れた瑕疵(通常、外部からは容易に発見できない欠陥)」があり、買主がその存在を知らず、知らなかったことに対して買主に落ち度がない場合、買主は売主に対して契約の解除や損害賠償の請求をすることができます。
売買契約で頻繁に出てくる言葉に「債権」と「債務」があります。
債権は、ある特定の人(債権者)が特定の人(債務者)に対して、特定の行為(給付)を請求することができる権利です。例えば、住宅の売買契約を締結した場合、売主は買主に代金の支払いを請求できる債権を持ち、住宅を渡すという債務が発生します。
逆に買主は住宅を請求する債権があり、代金を支払う債務を負います。一方の当事者が債務に従って給付をしないことを債務不履行といいます。このような場合、債権者は損害の賠償を請求することができます(民法第415条)。
債務不履行には、約束した期日までに履行されない「履行遅滞」、債務者の責任によって債務の履行ができなくなる「履行不能」、履行されたものの不完全だった「不完全履行」の3種類があります。
損害賠償についても民法上で定められており、「当事者の定めがない場合、損害賠償は金銭で行う(第417条:金銭賠償)」、「債務の不履行に関して債権者に過失がある場合、裁判所はこれを考慮して損害賠償の責任や額を定める(第418条:過失相殺)」、そして「債務不履行によって受けた損害に関連して利益も得ている場合、利益分は差し引いた賠償金額になる(損益相殺)」とされています。

(3)交換
交換とは、「当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる」ものです(民法第586条)。
端的に言えば物々交換で、当事者の双方が対価を交換する有償契約にあたります。反対に無償契約は、当事者の片方のみが経済的な損失を負うもので、贈与契約などがあります。

(4)消費貸借
民法第587条には、「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」と定められています。
消費貸借は、借りたものそのものでなく、それと同種、同品質、同数量を返還するため、使用貸借や賃貸借とは異なります。
例えば、100万円を借り、その100万円自体は使用し、返済時には別の100万円を用意するというケースです。消費貸借で最も多い事例が金銭の消費貸借契約で、借主が約束をした期限までに決められた支払方法によって借りた金額、それに対する利息を返済する契約です。
利息については「利息制限法」で定められており、元本が10万円未満の場合は年20%、10万円以上100万円未満は年18%、100万円以上では15%が上限となっています。
しかし、数年前に問題となった「グレーゾーン金利」を覚えている人も多いと思います。2010年まで、出資法では罰則の対象となる金利が年29.2%と定められていたため、利息制限法(20%)と出資法(29.2%)の間で上限金利の差が生じる状態となっており、その間の金利(20〜29.2%)はグレーゾーン金利と呼ばれていました。現在は出資法の上限金利も20%と改正されたため、この差は解消されています。
また、金銭の消費賃貸契約を締結する際は、借主が返済不能に陥った場合などに備えて、担保権の設定や保証契約を結ぶこともあります。
担保権で代表的なのは抵当権でしょうか。主に土地や建物が抵当権に設定され、借主の返済がなされない場合には、貸主は抵当権を実行し、その土地や建物を売却して貸した金額を回収することができます。
保証契約は貸主と保証人の間で締結する契約で、通常の保証と連帯保証の2種類があります。通常の保証人ですと、借主に返済能力がある限りは借主への取り立てが優先されます。
しかし、連帯保証人は借主の状況とは関係なく、同等の責任が負わされるため、貸主は回収しやすい連帯保証契約を選択するケースが一般的となっています。
ドラマなどでも連帯保証人に対する厳しい取り立てのシーンが出てきますが、連帯保証人になることはできるだけ避けるべきですし、やむを得ずになる場合も契約の内容などを事前に把握しておくことが不可欠です。連帯保証人を解除することも可能ですが、貸主との合意が必要ですので、代わりの人を用意するなどしない限り、難しいのが実情です。

(5)賃貸借
賃貸借とは、「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(民法第601条)」もので、アパートやマンション、駐車場の賃貸借などが典型例です。
アパートやマンションを借りるときには敷金や礼金を支払うケースが多いですが(最近は敷金、礼金なしを売りにしている業者もありますが)、敷金(保証金)は入居時に貸主へ預ける担保金で、退去時に未払いの家賃や修理が必要な場合は敷金から差し引かれ、残金が借主に返還されます。
また、礼金は貸主に対して支払うお礼金のようなもので、賃貸借契約が終了しても返還はされません。
近年、増加しているのが、退去時にハウスクリーニングやクロス張り替えの代金が一方的に請求されるケースなど、原状回復と敷金のトラブルです。原状回復とは、「当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を現状に復させる義務を負う(民法第545条)」こととされています。
しかし、建物の賃貸借契約では貸主、借主のどちらが原状回復の費用を負担するかが明確に定められていませんでした。そのため、国土交通省は平成10年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を作成し、その後も改訂を行っています。
ポイントは、建物の経年劣化や借主の通常使用による損傷は借主の原状回復義務には含まれないという点です。例えば、家具の設置による床やカーペットに跡がついた場合、テレビや冷蔵庫の後部壁面が黒ずんだ場合、日照によるクロスや畳の変色などは通常使用の範囲とされますが、タバコによるクロスの変色、ペットの臭い、借主の不注意による傷やカビなどは借主が負担することになります。
いずれにしても、賃貸借契約を結ぶ際には契約の内容を確認し、不明な点はあらかじめ明確にしておくことが第一です。
しかし、一般的に賃借人は賃貸人よりも弱い立場にあるため、賃借人は借地借家法などによって保護されています。借地借家法、その他の典型契約については次回のコラムで取り上げます。


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