翻訳家によるコラム「“common law”について」



法律・契約書コラム

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2018/06/07
訳語の選択について

こんにちは。
高橋翻訳事務所の契約書翻訳・法律文書翻訳担当の岡田と申します。

今回は訳語の選択についてお話します。

“Such issue shall be escalated to a higher manager.”

上記の英文はどのように翻訳すべきでしょうか。この英文でポイントになるのは「escalated」です。「escalate」の意味を一般的な辞書で調べると「段階的に増大する(させる)」などの意味しか載っていませんが、文脈から判断して「(問題を上に)上げる」という意味で用いられていることがわかると思います。またスペースアルクの「英辞朗」で「escalate」を調べると、「〔現状レベルで解決のつかないことを〕上位レベルの処理事項とする。」という説明があり、さらに調べると「escalate the issue to higher levels of management 問題を上位管理者へ上げる」という訳例がありました。

そこでこの英文は以下のように翻訳することができます。

「そうした問題は、上位のマネージャーに付託する。」

しかしもう一つの翻訳が考えられます。それは以下の翻訳です。

「そうした問題は、上位のマネージャーにエスカレーションする。」

ここでポイントになるのは「エスカレーション」という言葉を知っているか否かということです。もちろん「拡大」、「増大」、「上昇」などの意味での「エスカレーション」という言葉は誰でも知っていると思いますが、ここでの翻訳のように「エスカレーションとは、ユーザサポートなどの業務で、あるレベルの担当者が、自分では対応できない問題を上のレベルの担当者に委ねること、交代して担当してもらうこと」を意味し、ITの分野以外でも一般のビジネス用語として用いられるようになっていることから、上記の翻訳が最も適切と思われます。文章の用途によっては「(問題を上に)上げる」といった表現を用いることが適切な場合も考えられますが、少なくとも上記の意味での「エスカレーション」を知っていて、翻訳を行う上で選択肢として持っていることが重要です。

一言に契約書といっても、IT、金融、保険、建設、不動産、物流、製造、医療、ファッションなど、その内容は非常に多様であり、その都度、専門的な事項や用語に関する知識を求められます。当然のことながら、ITからファッションまであらゆる業界について精通していることはあり得ないとしても、様々な契約書に対応する上で、少なくとも一般のビジネス用語として用いられている言葉や用いられつつある言葉くらいは知っている必要があります。


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