翻訳家によるコラム「コモン・ロー(common law)とエクイティ(equity)について」



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2011/07/01
コモン・ロー(common law)とエクイティ(equity)について

契約書翻訳、法律文書翻訳担当の岡田です。

「コモン・ロー(common law)とは何ですか?」「エクイティ(equity)とは何ですか?」という質問を頂くことがよくあるので、今回は「コモン・ロー」と「エクイティ」について説明します。

「コモン・ロー」と「エクイティ」について説明しますと申し上げましたが、「コモン・ローとは何か」「エクイティとは何か」という一般的な説明や学術的な説明をしても抽象的でわかりにくいと思いますので、「コモン・ロー」と「エクイティ」という言葉が用いられる典型的な規定を挙げて、英文契約書で用いられる場合に限定して具体的に説明します。

“A party's remedies set forth herein are not exclusive and are in addition to any and all other remedies available at law or in equity.”

「本契約に定める当事者の救済は排他的なものではなく、コモン・ロー上またはエクイティ上のその他のあらゆる救済に追加される。」

「コモン・ロー」と「エクイティ」とはかつて英国に存在した法制度のことです。「コモン・ロー」は「普通法」、「エクイティ」は「衡平法」とそれぞれ訳される場合がありますが、「憲法」や「民法」のような特定の法律ではなく、法制度の名称です。英国には「コモン・ロー」と「エクイティ」という異なる2つの法制度が併存し、それぞれ別々の裁判所で運用され手続きも異なるものでした。しかしその後、「コモン・ローとエクイティの融合(merger of law and equity)」が行われ裁判所も手続きも1つに統合され、現在では英文契約書のもととなる英米法(Anglo-American Law)という1つの法体系にまとめられています。単純化すれば、「 英米法 = コモン・ロー + エクイティ 」ということです。そのため英米法には、「コモン・ロー」という制度のもとで認められていた「コモン・ロー上のもの(救済や権利など)」と、「エクイティ」という制度のもとで認められていた「エクイティ上のもの(救済や権利など)」が併存します。

そこで上記の規定を平たく説明すると、「英米法に基づく救済には、コモン・ロー上の救済とエクイティ上の救済がありますが、この契約に定める当事者の救済は、コモン・ロー上の救済とエクイティ上の救済を排除するものではなく、これらの2つの救済に追加されます。」という意味です。要するに「 英米法 = コモン・ロー + エクイティ 」であるので、「コモン・ロー上またはエクイティ上のその他のあらゆる救済」とは、「英米法上のその他すべての救済」という意味であり、すべてのものを網羅するために、「コモン・ロー」と「エクイティ」の両方に言及するわけです。

もう1つの典型的な規定は以下の規定です。

“Licensee acknowledges that its breach of this Agreement may result in irreparable injury to Licensor for which there will be no adequate remedy at law, and Licensor shall be entitled to equitable remedy, including specific performance and injunctive relief, in the event of any breach or threatened breach of this Agreement by Licensee.”

「ライセンシーは、ライセンシーによる本契約の違反の結果、ライセンサーに回復不能な損害が発生する可能性があり、当該損害について十分なコモン・ロー上の救済がないことを認め、ライセンサーは、ライセンシーが本契約に違反した場合、またはその恐れがある場合、特定履行および差止命令による救済を含めたエクイティ上の救済を求めることができるものとする。」

上記の「コモン・ロー上の救済」とは金銭による損害賠償(金銭賠償:monetary damages)のことであり、「エクイティ上の救済」とは特定履行(契約上の義務を履行させること)や差止命令による救済(契約に違反する行為をやめさせること)などのことです。従って、上記の規定の趣旨は、「ライセンシーがライセンス契約に違反して、ライセンス契約によって認められない方法で権利を行使したり、ライセンス契約に定められた義務を履行しない場合、ライセンサーに回復不能な損害が発生する可能性があり、その場合、ライセンサーに発生した損害を事後的に金銭で賠償することは不十分であって、ライセンサーは、法的手続きにより、その前に契約上の義務をライセンシーに履行させたり、契約に違反するライセンシーの行為をやめさせたりすることもできます。」ということです。

このように、「コモン・ロー」と「エクイティ」の意味ではなく、「コモン・ロー上の救済」と「エクイティ上の救済」の意味を知ることが重要であり、また契約書の規定を理解するにはそれで十分ということになります。

最後に、上記の「コモン・ロー上の救済(remedy at law)」のように、「エクイティ(equity)」と並べて使用されている「law」は、「法律」や「法的」という意味ではなく、「コモン・ロー(common law)」を意味することに注意してください。「remedy at law」を「法的救済」などと訳している場合を見かけますが、正しくは「コモン・ロー上の救済」です。また「equitable remedy(エクイティ上の救済)」に対して「legal remedy」という場合がありますが、これも「法的救済」ではなく「コモン・ロー上の救済」であり、「legal」は「エクイティ」に対する「コモン・ロー」を意味します。もちろん、「law」と「legal」が本来の「法律」や「法的」といった意味で用いられる場合もあるので、文脈からいずれかを適切に判断しなければなりません。


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